元ネタが消えてしまったので、ちょっとここに解説を書いておきます。
まず、ブリリアントジャーク(Brilliant Jerk)が「優秀だけれど協調性に欠け、組織に悪影響を及ぼす人物」という意味通りならば、できるだけ彼/彼女から避けてください、の一択です。Web で検索をすると「受け入れる」案がたくさんあるのですが、小規模のチームの問題ならばなおさらです。これは明確に “チーム殺し” via 「ピープルウェア」にあたるので、チーム自体が崩壊しかねません。なにがどのように優秀なのか? 目の前のチームが何を成し遂げようとしているのかをチームリーダーは見極めなければいけません。
元記事が大人の事情で消えてしまったので、状況だけを示しておきますが、
・アジャイル開発スクラムのメンバーである
・優秀なメンバーとして後から入ったが協調する気がまったくなかった
という場面です。そもそもアジャイル開発スクラムにおいてはチームメンバーの価値観の統一が最優先になります。これはスプリントと呼ばれる2週間の短期間のうちにプロジェクトの目標を次々と成し遂げないといけないために、まさしく “スクラム” を組み一丸となって進むことを示しています。たまにテック系の行動規範として「相手を尊重する」ことが入っているコミュニティを見かけますが、まさしくその通り、同じチームを組む以上チームメンバーを尊重することが必要です。これは、自分の意見を通すだけでなく相手の意見も聞くという意味も含めます。そのような意味でも、同じ価値観がなければ、チームで組むことはできないと他のメンバーも考えるし、スプリントの中で「徹夜」や「残業」などの嫌なことを乗り越えていくことができないでしょう。
そうなんです、アジャイル開発スクラムの場合は、メンバーの合意のもとでは「徹夜もします」ってのが条件だったりするんですよ、実は。
まあ、そんな訳でスクラムマスター(おそらくリーダー役?)が諭して直るパターンであれば、ブリリアントジャークというほどでもないし、ちょっとした勘違いテック野郎だったんじゃないですかね? という具合です。
では、どう対処するのか?の具体例を示しておきます。IT 業界で「優秀だけど嫌な奴」の筆頭といえば、リーナス・トーバルズ氏です。口が悪くて相手への態度も悪い、容赦がないので有名ですね。でも優秀です。Linux を作った人ですし、現在も Linux を現役で支えている人です。最近の業界ではないのですが、IT の黎明期ではこのような天才的な才能があれば、なんとでも行ける部分があるので、結構こういう人が多いです。ちなみに私はリーナス氏が好きか嫌いかというと、いやどちらでもないです。どちらでもない理由は後述しますが、無責任な話でいえば、そういう人も必要ではあるだろうなぁという話です。これも無責任ですが、同じく後で理由を話します。
これ、IT 業界に限らずクラシックの指揮者とか、映画監督とか、アニメとか漫画家とかいますよね。ひとりの才能が拡散されている業界はこの手の「ジャーク(嫌な奴)」でもやってける部分があります。でも、やっていけるのはそれなりに理由(本人ではなく業界としての理由)があるわけで、ひとまず構造的にやれるようにメンバーを組むというのがひとつの方法です。漫才あたりとかテレビ業界もそうですが、「売れればよい」といのがそれです。そのあたりは市場原理もあるので、否定しません。
チーム内のジャークをどう扱うか?
アジャイル開発スクラムではない場合は、なんとかなります。そもそも優秀なのだから(何を以って優秀というのかは明確にしておいてください)、その「優秀さ」を最大限生かせるようにチームを組み直します。いえ、ある意味でチームを解体します。
先に言ったようにジャークは優秀であろうとチーム殺しの一つなので、チームに取り入れてはいけません。しかし、なんらかの事情でチームに取り込まないといけないという状況になったと仮定しましょう。実際、そういう場面はいくつかあります。
・プロジェクトが炎上してしまって、外部からジャークを呼ばないといけない。
・レガシー開発をしていたジャークしか直せないバグが発生した
・社内政治のナントカ(社長の息子とか取引先の縁故とか)でジャークが入ってきた
のような場合は、どうしてもジャーク君を排除できません。これはもう仕方がないです。諦めましょう。このジャーク君にどう対処して、できるだけ早くジャーク君がいらない状況を作ってしまうのが先決です。メンバーの方が大切です。ジャーク君を育てることを考えてはいけません。まあ、三番目の縁故の場合は、ジャーク君に取り入ることも可能なのですが、それは別の話です。
炎上プロジェクトの助っ人やレガシー開発での助っ人みたいなジャーク君に対しては、もうこれは仕方がないので、マネージャが接待してください。この一手で十分です。いわゆる、バスケでいうところのマンツーマンですね。
・ジャーク君が素早く開発できる環境を、ジャーク君専用で整える
・ジャーク君は、朝のミーティングとかチーム内ルールを免除する
・ジャーク君の暴言がチームメンバに向かったら、すかさずマネージャが割り込む
という具合で、本来のチームを持ってください。それがマネージャの役割です。そして、ジャーク君にはさっさと仕事を終えて貰って出て行ってもらいましょう。育てるとかルールを守って貰うとか何とか考えてはいけません。ジャーク君は別の世界の人ですから、私達には関係ないのです。ジャーク君が作る恩恵だけを享受しましょう。それ以外は不要です。対抗しようとしてはいけません。限りなく受け流してください。
社内のジャークをどう扱うか?
どちらかというと、こっちのほうが問題です。Netflix のカルチャーメモにあるように会社としても「ブリリアントジャーク」を排除してしまうのがベストなのでしょうが、まあ、そうはいっても入社してしまったし、というのが日本的な風土の問題ですね。また、リーナス氏のような優秀な(とも言えないけど)人材が会社に入ってきたらどうでしょう? なかなか排除ってわけにもいかんでしょう、という心情はわかります。また、業界にもよっても違うわけで、クラシックの指揮者とか、アニメーションや映画の監督とか、舞台の役者とか、漫才師みたいなのは、真ん中のジャーク君を盛り立てて成り立っている業界的な構造もあるので外すことができません。つまり代替が効かないというパターンです。
ただし、このあたりの構造はダウンタウンの松本氏やフジテレビの問題やジャニーズの問題のように崩壊することが多いので、慎重に扱わねばなりません。ジャーク君は当然のことながら、素行が悪いだけでなく、法的なラインも自分中心に超えてくることが多いので、そのまま扱うと会社自体が崩壊しかねません。これは経営判断となるので取締役以上で決めることですね。一般的な会社員が決められることではありません。
それぞれの会社がどのようにジャーク君を扱うか、業界ごとに異なるでしょうから、ここでは IT 業界の会社の例に絞っておきましょう。
まず、小規模の会社(10人位とか)の場合は、もう駄目です。小規模の会社の場合は、社員=チームメンバーという形になってしまうので、先のスクラムチームと同じ状態になってしまいます。この場合は、社長自らがジャーク君と対峙するしかありません。あるいは、ジャーク君担当の取締役を付けるしかありません。まあ、小規模 IT 会社の場合は、社長そのものがジャーク君の場合が多いので、その場合は社員が逃げてしまうので大丈夫です。よほどジャーク君が優秀でなければ生き残ることができません。他社と付き合わないといけないわけですから、疑似的であれ表面的な協調性は必要ですよね。芸能界でいえば、マネージャを間に挟むところですが、IT 業界の場合そういうものはありませんので潰れてしまいます。リーナス氏の場合は、かなり例外的です。
問題は100人程度の中規模な会社です。会社としてはジャーク君の配属を変えることができるし、ジャーク君の「優秀」という恩恵だけを会社が受け取れる状態になります。迷惑なのは社員のほうですが、これはうまく会社のほうで対処しなくてはいけません。そうしないと次々と退職者が出てきてしまいます。会社として、新人をひとり入れるのに年収の 1/3 程度がかかります。少なくとも一人の退職者が出ると百万円レベルの損失を考えないといけません。ジャーク君が配属された部署からひとり退職者が出るたびに、ジャーク君のボーナスから百万円を差し引いてもよいぐらいです。それぐらいのダメージを覚悟してください。
というわけで、中規模の会社の場合は、ジャーク君に権限を与えないようにします。先の火消しのようにジャーク君を使い潰してください。そのたびに、太鼓持ち風のマネージャを付けて申し送りをすればよいのです。ジャーク君が改心するかどうかはわかりません。
会社としては、ジャーク君の「優秀」な部分を取り出して、別の会社に売ればよいので、それだけで十分です。まあ、それでも Netflix のように排除するほうがいいと思いますけどね。
さて、いわゆる大手 SIer の場合はどうでしょうか?
実はジャーク君は組織の中に一定数、ちらほらと確率的に存在します。中学校のクラスの中でいじめが発生するのと同じぐらいの確率で存在しますね。いわば、組織が進化する上の必要悪…というより、ちょっとした不可欠な要素という面もあります。学校の中のいじめの問題は別な対応が必要なのですが(クラスメンバーが平等という前提があるので)、大手会社の場合は別な方法がとれます。なぜならば、大人数の組織の中では、それなりに上下関係ができてしまうものですし、会社組織としては給与体系とかあり上下があるのが普通だからです。学校の平等とは違います。
だからといって、大手組織の中でジャーク君を放っておくことはできません。先のフジテレビの問題のようになってしまいます。権限を与えてしまうと、権限が権限を呼び、先行き会社を傾きかねない事態に陥ってしまいます。フジテレビの場合は、ジャーク君自体が社長になってしまったので、時代性もあり仕方がないですね、ってのとどうしようもないね、ってのが私からの視点ですが、IT 業界でもたまにありますね。
唯一のうまい方法としては、ジャーク君たちをひとつの部署に集めることです。
実は大手の会社となると確率的に複数名のジャーク君がいます。ジャーク君は弱肉強食の中で弱者に対していじわるなだけなので、ジャーク君達、つまりは複数名をひとつにまとめてしまってください。いわゆる特殊部隊というやつです。ジャーク君自身には権限を与えてはいけないので、タフなマネージャーを据えてください。マネージャはジャーク君に同情はしません。操るだけです。
なんか見たことがあるでしょう?「攻殻機動隊」の公安8課とかパトレーバーの特車二課とかいくつか思い浮かぶはずです。公安8課の部長なんて、ちょうどいい感じでできていますよね。あれ、物語自体はフィクションではありますが、心理描写や組織体系は現実から逃れられないので(リアリティを出すために) “部長” の立ち位置と言動が本物に近いです。もっとも、政治に近いところであれができるかどうか不明ですが(おそらくできないような気がしますが)、理想像はアレには違いありません。
ジャーク君達は、研究職やら R&D やらで頑張って頂けばいいのです。彼らは優秀なので徹夜だとか勤務時間は全然気にしません。当然勤務態度も悪いのですが、そこは特別部署なので御咎めなしです。ただし、成果は出さないといけないので、弱肉強食ですよね。はたして、ジャーク君チームに入りたいかどうかは、一般的にはわかりません。
もちろん、研究職や R&D チームでも礼儀正しく協調的にやるほうがいいのですが、会社に入ってしまったジャーク君たちをどう扱うかという話になるので、こういうパターンもできます、ということです。
退職を促す方法については、閑職に移すとか色々あるので訴えられない方法を選んでください。これは実情がいろいろ世の中にころがっています。
もう 20 年以上前になりますが、マーチン・ファウラー氏が XP 関係で来日したことがあります。彼の講演でよく覚えているのが「私達の世代では、技術力を盾にしてひとりでやることが多かったが、これからチームでの社会性や協調性が必要になってくると思う」という話でした。アジャイル開発の黎明期でもあり、個人的な開発力よりもチーム力が重んじられてきた時期です。それ以前では、プログラマが知識と腕力で犯罪スレスレでもあってもいいから技術力を磨いてのし上がってきたわけですが(ファウラー氏もそうみたいだし)、これからはそうではないです、というのを彼の娘を例にして話していたのが印象的です。
別に仕事なのですから、学校のときのように仲良しこよしでやる必要はありません。時には給与査定もあるのですから、競争することもあるでしょう。しかし、いまどき敢えてジャークである必要はありません。プロジェクトという目的があれば協力し、プロジェクトがなくなれば特に協調しなくてもよいのです。仕事ですから。
そういう意味で、例えばリーナス氏のようなジャーク君が会社にいて、とある部署で業績を上げていたとして(それがジャーク君チームの R&D だとして)、それをどう思うかといえば、無関係ですよね、自分に被害が及ばない範囲であれば、と私は思う訳です。モノホンのリーナス氏はよく知らないので、なんとも言えないんですよね。なので、ここはリーナス氏風のジャーク君がいたとしての仮定のお話です。
