このブログは技術ブログではあるのですが、個人的な思考実験ブログでもあります。
ジョセフ・ヘンリック著「文化がヒトを進化させた」に追加して「WEIRD「現代人」の奇妙な心理」を読み終えたので、その感想も兼ねて記述しておきます。
“WEIRD” 奇妙な人々という人類学的な分類
ロシアによるウクライナの侵攻、アメリカによるイランへの爆撃そしてホルムズ海峡の封鎖、イスラエルによるガザ地区への攻撃などが続き、先行きが見通せない日々が続いています。遠くの戦争は第一次世界大戦を思わせるし、昨今の日本の軍備費の増加から、第二次世界大戦の前夜を思わせる動きもあり、悲観しかねない日々が続いています。
ただ、楽観的なことを云うならば、私自身が学生の頃に経験していた「冷戦構造」よりは、少し未来は明るいような気がしています。というのも、当時のアメリカとソ連による冷戦構造のときには、それ以前の冷戦構造がありませんでした。あるとすれば、第二次世界大戦の緩いアメリカとソ連の対立でしょう。それは、私達の戦後の世代では直接知り得ないことであります。しかし、大学の頃に発生した、ソ連の崩壊、東西ドイツの統合、フォークランド紛争などを経てきたとき、ソ連による冷戦構造の崩壊、核兵器の拡大から軍縮への動きがあり、そして再び、プーチン大統領により「ソ連時代の復活」、トランプ大統領による「アメリカ帝国」が来たとしても、それは「漠然と予想し得た現実」に過ぎません。よくも悪くも芥川龍之介の言う「漠然とした不安」に対抗する手段を私達は過去の経験から得ています。そう、温故知新と歴史という意味で。
ジョセフ・ヘンリックが提唱する “WEIRD” は Western, Educated, Industrialized, Rich, Democratic の略です。
– Western: 西洋
– Educated: 教育水準が高い
– Industrialized: 工業化
– Rich: 裕福
– Democratic: 民主的
の頭文字をとったものです。この略語から見えるのは、EU/アメリカ圏内の裕福な国と家庭を示しています。一部で、日本や韓国、シンガポールなどの国や地域が入りますが、まるごと国がはいるわけではありません。この本が執筆された6年より前では、新型コロナが蔓延する前の世界であり、トランプ大統領が出てきていない、アメリカはまだオバマ大統領の時代です。そんな中で、世界の最先端かつ理想的でもある「アメリカ文化」が、実に「WEIRD」であり、文化進化論的には特異点とも言える、という議論をこの本は出しているのですが…日本人にとっては、実に嫌味な感じですよね。逆に言えば、アメリカに住んでいる裕福な家庭が「WEIRD」であり、そのほかの発展途上国(後進国と言ってもいい)の貧困家庭においては「WEIRD」とはいっても、それは搾取する側の論理ではないか?と思わなくもありません。特に、日本の場合は、最近は中流層がなくなり、裕福な富裕層と貧困層の二分化が進んでいます。これは、新自由主義の結果(あるいは求めているところ)でもあるのですが、果たして、それがどのような結果をもたらすのか? というところです。文化人類学的には平たく「滅亡」するだけなのですが…それは、また別の機会に話します。
さて、「WEIRD」が出版されて6年後の世界に私達はいます。そうです。アメリカ帝国(といってよいでしょう)にトランプ大統領が君臨しているという奇妙な現象が発生しています。世界的に右翼化が進み、フランスのRNや、ドイツのAfD が台頭してきています。いまだ、ウクライナの侵攻は終わる気配はなく、EUでのNATOの危機もあります。
そんな風に、「WEIRD」が出版あるいは執筆された当時は、WEIRDな人達が世界の最先端として世界経済を引っ張っていた(あるいは行くであろう)という風潮であったのですが、現在、それは片鱗さえなくなりつつあります。トランプ大統領を支えるのはアメリカ南部の人達だけではありません。プエルトリコ系の非白人も共和党を支持しているのが現状です。もっとも、最新の中間選挙直前では、トランプ大統領の暴走状態(それは最初からわかっていた筈なのですが)を知った共和党の支持者が離れつつあります。
不思議なことではありますが、共和党の支持者は労働者が多く、WEIRD でいうところの、裕福(Rich)ではありません。「WEIRD」が執筆されたときには、オバマ大統領を支持する民主党、つまり都会の裕福な層が Rich を支えていたのですが、共和党のトランプ大統領にシフトすることにより、Rich が消え貧困層あるいは労働層に置き換わり、非 WEIRD な層がアメリカを支配している、あるいは世界の先端を行っている、という状態になっています。だいたい「社会学」というものは、その社会学の結果が発表された途端に、社会自体がその理論を裏切って、別の方向に走り始めるという現象が起こるのが常です。それゆえに、一般的には社会学は、常に「既に知っている古い学問」という見られ方をします。この「WEIRD」に関しても同じ現象が起こったのではないか、と私は類推します。
もうひとつ、トランプ大統領を支えている母体として「福音派」があります。福音派は、キリスト教プロテスタントの一派ではありますが、実に強力な布教力があります。この母体が宗教的である(日本における、日本会議や神道や統一教会みたいなものです)ことは重要だ、と私は思っていましたし、多少いまでもそう思うところがあります。
しかし、「WEIRD」な視点、文化人類学あるいは組織進化学の分野から言えば、ここで組織の盛衰を握っている力は宗教的なものではなく、さらに地政学的なものでもなく、親族的な繋がりを切って来たプロテスタントの活動、親族的な繋がりよりも個人主義が優先される都会の優先度、にあるとヘンリック達は云います。
WEIRD と x-clash というゲームの関係
実は「文化がヒトを進化させた」は、非常に共感できるものの、追試の対象を見つけることができず、私の中ではひとつの論という扱いでした。後に、動物の組織進化学の中で、組織自身が盛衰する仕組みを知ってから、現実の組織に対するアプローチを変えていきました。ただし、これは個人的な経験でもあり、一般的に広まるような確証は持てませんでした。同意できる事象はいくつかあるのですが、間違った対処をしてしまった場合、組織自体が消滅してしまうために経緯としての「証拠」が残りにくいのです。つまり、生存戦略として組織進化学のノウハウを利用しているものの、組織を滅亡に導く事例(ソフトウェア開発における「デスマーチ」の原因みたいなもの)はあまり記録としては残らず、組織の成功例のみ残るために、実に偏ったデータしか残されていません。いわゆる、畑村教授の「失敗学」のアプローチが必要になるのですが、これを人々は実に嫌がります。
そんな中で、今年の夏ぐらいから x-clash というゲームにハマりました。
x-clash は、いわゆる MMORPG の戦略ゲームなのですが、興味深いことに、チーム(同盟)同士の戦闘が活発です。この手の戦略ゲームでは、チームが国ごとに分かれるのが常なのですが、x-clash ではチャットが「自動翻訳」されるために言語の壁が非常に低くなっています。つまり、日本語/韓国語/台湾語/英語/フランス語/ドイツ語 などがチャット内に混在しますが、自動翻訳されるので「会話」が成り立ちます。
これにより、同じ国で同盟を組むこともあり、異なる国で組むこともあります。さまざまなゲーム事情から、混成部隊になることが多いのです。
これらの同盟の盛衰(同盟同士の戦闘や合併もあります)は、ちょうど組織進化学のよいフィールドワークになっています。という訳で、暫く居座ってゲームをしていました。1か月半ほどプレイした後なのですが、ここでのフィールドワークのまとめを書いているところです。これは後日。