朝と狂言とガスパーチョスープと附子

主人「ここにあるのは附子(ぶす)という毒じゃ。猛毒だから、少しでも間違えると死んでしまうぞ。」
太郎冠者「あい分かり申した」
次郎冠者「あい分かり申した」

主人は出掛ける

太郎冠者「のう、次郎冠者、この附子というものだが、これは嘘じゃぞ」
次郎冠者「そうかな、本当のように見えるがな」
太郎冠者「いや、これは嘘じゃ。主人が我らに喰わせるためには惜しいと思い、嘘を言うたのじゃ」
次郎冠者「そうか、ならば安心じゃ」
太郎冠者「そうじゃ、ならば安心じゃ」
次郎冠者「ならば、酒でも以って来よう。しばし待たれよ」

次郎冠者、下手に走り去る

太郎冠者「しめしめ、これで安心じゃ、この附子は儂のものじゃ、どれどれ、ひとくち」

ぱたり、太郎冠者倒れる

救急車と警察がやってきた。担当である M は舞台の上で検証を行いはじめた。そこに倒れているのは太郎冠者…ではなくて、役者の A さんだった。既にこと切れているらしく。救急隊員は首を振り帰って行った。残るは、検察の数名のみだ。制服の警官が廻りを囲んでいる。
「警部、どうしますか?」
「どうというと?」
「いや、このまま、観客を留め置くのも大変かと。いまだ容疑者と決まったわけではないのですが、観客には高齢者も多く、長時間拘束するには忍びないかと」
「うむ、確かに」と M は頷いた。
周りを見渡すと、実に高齢者が多い。着物を来た高齢者もいれば、杖をついた高齢者もいる。いまにも失神しそうな高齢者もおり、背筋が伸びた高齢者もいる。実に、高齢者ばかりだ。舞台裏では、なぜに今日だけこんなに高齢者がいるのかわからないと、裏方のスタッフが噂していたが、こんなにも高齢者が多いのは珍しらしい。なにか、事件と関わりがあるのかもしれない。

「そうだな、ここは一旦、観客を解散させてくれ。住所は控えておいてくれ」
「はい、警部」

まわりの制服組と協力して、彼は観客を解散させた。観客は蜘蛛の巣を散らすように帰ってしまった。実は高齢者ではなかったのだ、時空のゆがみによって宇宙船から降り立った旅行団だったらしい、

「え、ちょっと、待て」時、既に遅しである。

「あれれ、ちょっとこの話、おかしいよ」ね、と横から小学生が口を出して来た。こまっしゃくれた子供のようだが、頭脳は高校生ぐらいだった。IQ はええと、180 ぐらいだろうか。まあ、本当に小学生1年生ならばだ。
「なにがおかしいというの?」私は彼に言った。
「いや、だってさ、太郎冠者は附子を食べたんでしょ。でも、その附子は主人をも以前たべていたのだから、毒ではなかった。だから、太郎冠者は死なないのが本当なのだよ。ここで倒れたのは偽装であって、実は次郎冠者が主人に毒を盛られるはずだったんじゃないかな。太郎冠者は、主人からこれは毒ではないと知らされていた筈なんだよ」
「えー、そうかもしれないけど、私は太郎冠者が死んだほうがいいと思うんだけどな」
「いや、そうじゃないよ。太郎冠者は死ないほうがいいよ、それがのほうがトリックとして面白いじゃない」
「うん、そうれはそうかもしれないけど、これはミステリーじゃなくて、ノンフィクションだし、昔にあった事実を狂言回しにしていて、昔の事件を隠していたという風にしたいのよ」
「でもさ、ほら、ここの床を見てごらんよ」
男の子が床を指さすと、そこには人が倒れていた。
「え、いつの間に!」私は言った。
「見ようとしないと見えない。けれども、だから毒だと思わなければ毒の反応を見せない。こえは現象学の常識だよ」

「まって、まって、まって! ちょっと待ってください」と編集者が言う。
「え?何か問題がありますか」
「あり、あり。大あり喰いですよ。ありがた山の問題ありありってことで、ここの「現象学」のくだりですがね、ちょっと、これは不味いですよ」
「え?そうですか、どうしてですか?」
「だって、このシーンは、姑獲鳥のピーの真似じゃないですか。あれの真似でおしまいにしてしまったら、著作権上問題がありますよね」
「ああ、たしかに」

バターン。

ふふふ、大統領は笑った。時空を閉じて挟んでしまったのだ。挟んでしまえば、どこかに飛んで行ってしまう。どこに飛んでいくのは大統領にもわからないが、別の時空、並行の世界に飛んでいってしまうのは間違いない。
「さて、これで著作権の問題は解決したな。たとえ AI が何と言おうとも、これは著作権に引っ掛からないしネタバレでもない。しかも、パクリとも言えない。学習の結果だ」

「いや、それはパクリでしょ」
「パクリというオマージュだよ」
(おい、認めちゃったよー)

それで、結局どう、な・ん・だい??

リマー「ガスパーチョス~~~~~~プ」

それでね、うちの奥さんにこの作品を見せたんですよ。うちの奥さん大学の頃に狂言研究会に入っていましてね。大学で舞台をやっていたことがあるんです。それでね、狂言を題材にして短編を書いてみようと思い立ちまして。結構いいぐあいにできたんじゃないかなぁと思いましてね。可愛かったですよ、その舞台が、

「そ、それは、内緒だったのに~!!!!」(ブスッ)

お後がよろしいようで。

【完】