掌握術のコールド・リーディングの話を少し

プログラミングは技術的な側面を押し出す理系的な面が多いけれど(この「理系」もかなり語弊があるが)、なにかと政治的な面に首を突っ込まないといけないことが多い…と言いますか、政治的な話でプロジェクトが潰されて現場のプログラマが被害を被るということが多々あります。

実は、アジャイル関係の教本には「政治的なことは別なところで解決してくれ」とはじめにと書いてることもあり、政治的な話を避ける傾向があります。が、ケント・ベック氏が10数年前に来日時に話していた通り「私たちの頃は、社会不適合者がプログラミングをしていたが、これからは社会的なコミュニケーションが重要視されると思う。娘の姿をみているとそう思う」なのです。ときに、XP がペアプログラミングで相互コミュニケーションを重要視したように、何かを技術的な側面だけで解決できるとは限らない、ということです。まあ、私自身も、いまとなっては「古い人間」なので、政治的な問題は苦手なところが多くできるだけ避けてはいるのですが、そのあたりは、技術者らしく政治的なものも技術的側面で解決するという脇道も考えるのです。

さて、某K議員の発言もあり、政治的な発言が「空疎」であると同時に、なにか深い意味がありそうなという「深読み」をする面もあり、いったいどちらなのだろうか?と思うところもあるでしょう。そのあたりの結論は脇に置いて(その問題は私の関知するところではないので)、もっと某K議員の天然ではないところに注目してみます。

目の前の人の共感を得る方法

会話というものが、瞬時的に1対1で行われる以上、相手からの好意を引き出すというのは円滑なコミュニケーションをする上で重要なことです。円滑なという言葉を使いましたが、狡猾なという言い方に変えても同じです。要は、相手に嫌悪感を与え防壁を作るよりも、うまく壁を取り除き(自分の壁は置いたままで)、自分の言葉刷り込ませるというテクニックを使います。

相手が好意を持つ(嫌悪感を持たない)ようにさせるためには、「あなたのことは特別です」という意図を伝えるのがベターです。一般的には、相手の目を見て会話する、という方法がとられますが、複数名に話しかけると同時にひとりに話しかけるということも可能です。

  • 会話をするときに、数秒間だけ相手のほうに顔を向ける
    → いわゆる、アイドルを見て「私だけを向いた!」という奴ですね。
  • 事前に調べた、その人しか分からない(と思われる)情報ををチラ見させる。
    → あなたのことを知ってますという方法
  • 会話の中で知った、その人の言葉を使う
    → あたなの言葉を私はきちんと聞いていますというアピール

人間も動物なので、自分だけが特別が扱いされるとうれしいものです。「うれしい」=警戒心緩むということですね。警戒心が緩むと、相対的に猜疑心が減るので、心の隙間に入りやすくなります。

ただし、よく営業トークである、相手に YES で同意するというのは、以前はよかったのかもしれませんが、最近は「胡散臭いやつ」や「なんでも YES と言えばいいと思っている奴」に見えるので、やめたほうがベターです。だんだん、人々は賢くなってきていますからね。優しい雰囲気は、老人にはいいのかもしれませんが。

この好意を与える方法の逆を取って、嫌悪感を与えるという方法も使えます。いわゆる、スケープゴート(生贄)をグループの中に作って、スケープゴート以外で団結させるという技ですね。先の好意を寄せるこの逆をすれば、グループの中に生贄を作れます。

  • その人からの質問をはぐらかして、他の人の質問を受け取る。
  • その人からの意見を取り上げた上で、別の人の意見に同意する。

これは某都知事がやっている方法で、たぶん無意識でやっています。この手の会話術は無意識でできる人(おそらく育ちだと思う)と、無意識ではできない人がいます。結果的には、無意識でできる人が、政治家向きなのですが(心理的なストレスが少ないので)、これを意識的にやる(会話をしているときに、裏で二重に会話を構成する)人は、政治家以外にもちらほらといるので注意が必要です。

相手の情報を事前チェックする

昔(30年前位だろうか)の営業としては、事前チェックは当たり前のことだったし、必須であったと思うのですが今はどうなんでしょう?昔はインターネットがなかったので、相手の情報を内密で得るのはなかなか困難でした。新聞なり図書なりを利用したり、事前に廻りの人に聞いたりするしかなかた訳で、コールド・リーディング(事前に知った相手の情報を利用する)の手法は占い師の秘匿の手段でもありました。

ただし、今だと事前に相手の情報を得るのは結構簡単です。

  • Google で相手の名前を検索する
  • Google で相手の会社を検索する、地図を見ておく
  • 商品情報や研究内容を検索する
  • 類似品の情報を検索する
  • 技術要素の用語を検索しておく

のように、相手の名前や社名で検索すれば結構でてきます。これは完全に事前ではなくても、会議中のトイレの中でも検索できるわけで、相手にとって「よく知っている人」に見えるようになります。つまり、警戒心を下げられるわけです。

私の場合はあまり得意ではないのですが、相手の会社の地図から、食べ物情報を検索して「あの店はおいしいですよね」と雑談するのもよい方法です。ええ、やる過ぎると胡散臭くみられるので、注意が必要ですが。

会話中に相手の情報を利用する

もうひとつの掌握術として、リアルタイムに会話をしているときに、相手の情報を使って相手の警戒心を下げるという方法もあります。ホット・リーディングと呼ばれますが、これも単なる会話術にひとつですね。

その場で知った相手の情報を活用するだけでなく、「相手に自分が何かを知っているように思わせる」という手法があります。これが冒頭に書いた、某K議員の話であって、

  • 何か言葉を使っているが「空疎」な言葉しか吐かなくて馬鹿なやつ
  • 何かグローバルな言葉を使って「意味深」な頭の切れるやつ

という感想が同居します。これ、同じ言葉を同じシチュエーションで使っても、受け取る側で二面的に取られるということです。そして注意したいのは、どちらも会話を発している本人とは関係ないところで起こる現象です。

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さんざん、マスコミでの情報の切り取り問題が起こっているので、発言者から発せられた「発話A」が、それぞれの受け取り方で異なることが分かると思います。これは意図的な切り取りがなくても発生します。例えば、同じ会議室で、発言者が「発話A」を発したとしても、聞いている人が別であれば、別の発話を受け取ります(これ、音波的には同じもなのか?という問題もあるけど、まあ、音波であっても違いますよね)。

ただし、発話Aを受け取った人は、微妙に異なる「発話A’」と「発話A’’」を受け取りますが、この差異はあまり大きくありません。マスコミやツイッターなどの意図的な切り取りは別なのですが、同じ場所で同じ発言を聞いていれば、多少は差異はあるけれども、ほぼ同じものを着ている。あとから「発話A’」と「発話A’’」を比較しても「発話A」を再現できる程度に正確に聞き取れているでしょう。

しかし、これを理解するための「解釈」の段階になるとことなります。それぞれの「知識B」と「知識C」が大きく異なるため、理解するための「解釈 A’+B」と「解釈 A’’+C 」は異なる可能性が高いのです。これが同じ発言を聞いても「空疎」と「意味深」が同居する理由です。

まあ時には、「空疎」だけど「意味深」という形で同居する解釈もできるので、それは頭の中で「知識B」と「知識C」を切り替えて2つの解釈を割り出す方法です。

これを発言側から見れば、相手の知識Bと知識Cに向かって「解釈が異なる」ことを利用します。つまり、相手に「知識B」があると仮定したうえで、漠然とした発話Aを発します。知識Cの人にとっては訳がわからないのですが、あらかじ知識Bの人は「受け答え」をします。この受け答えを以って、相手が「知識B」をもっていることを発言者は知ることができるのです。この問答は、試験官と面接者の関係に似ています。異なるのは、発言者Aは、あらかじめ「知識B」の全体をしらなくても、それとなく知識Bが回答させられるように、発言Aを「漠然と」言うということです。そして、発言者Aは、まんまと知識Bの概要を得ることができます。

一見、ややこしいように見えますが、よく親が子供に対して「今日、何かあった?」という聞くよりも、「今日の国語のテストはどうだった?」とカマを掛けるのと同じです。国語のテストがなければ、子供は「国語のテストなんかないよ、何言ってんの」と言うでしょうが、ちょうど国語のテストがあれば、隠していたテストの結果を出してくるでしょう。親の側では、国語のテストがあってかどうかを知らずに、国語のテストの結果を得られます。

こんな感じなのが、ホット・リーディングの会話テクニックなのですが、このあたり先天的に(というか家系的に?)無意識でやっている人たちもいるので、対抗手段を講じるのは必要でしょう。私的には無意識でやっているのは進化論のひとつだと思うのですが、その話はまた別の機会に。

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