学童でプログラミング教室を開いた3年間の話

少しプライベートな話になってしまうが記録として残しておこう。
ひょっとすると個人が特定できてしまうかもしれないが、特定せずに「マックで女子高生が話していた」程度に捉えてほしい。

プログラミング教室の事始め

板橋区のとある学童でプログラミング教室を隔週で開催している。板橋区は学童を「あいキッズ」という形で民間に委託しており、それを受けた民間の会社やNPO法人が委託した予算内でいろいろな試みをしている。私が関わっている「放課後NPOアフタースクール」もそのひとつで、あいキッズの中で、いくつかの学習企画を立てている。

その昔、学童といえば共働きの鍵っ子や、母子家庭の子が預けられる子というイメージが強かったのだが、最近はそうでもない。共働きの家庭がクラスの半分に及び、学校が終わってから親が家に変えるまでの数時間の間、小学生は学童ですごすことはごく普通な日常となっている。だいたい、学年で約半分の子は学童に通っていたりする。

学童は保育園と同じ様に保育の場ではあるもの、「あいキッズ」が民間に委託されている特性から、

  • 学童で何かを学習させる
  • 学童で何かを運動させる
  • 学童で何かを食べさせる

の用途もあいキッズに含まれている。学習や運動は、職員が行う折り紙教室やレゴ作り、サッカー、鬼ごっこなど、毎日細かなイベントが組まれている。お誕生日会や宿題の面倒などもあいキッズの役割である。

そして「放課後NPOアフタースクール」の場合は、職員が行うイベントとは他に、「市民先生」と呼ばれる板橋区から通えるような距離の民間の先生を呼んできて、1時間程児童に何かを教えるという学習スタイルが組まれている。

その中でプログラミング教室の打診を受けたのは、3年間のことで、まだ小学校でプログラム研修が本格化する前だった。しかし、既に Scratch などの子供向けのプログラミング教材は整いつつあった。最初は週1という話であったのだが、フリーランスにとって週1で時間を取られるのは難しく、隔週にしてもらった。これは金額的に安いというのも最初の理由である。

プログラミング教室の準備

子供向けプログラミング教室と言えば、月1万円の月謝を取るところも少なくはない。教材に至っては、LEGO などを使って5,6万円するものもある。一般向け(いわば富裕層向け)にならば、その値段でも殺到するかもしれないが、学童でのプログラミング教室では到底無理である。同時に、あいキッズに委託している金額もそう多くはないので、プログラミング教室だけにお金を掛けるわけにはいかない。

よって、

  • できるだけ、低予算(ノートパソコンのみ)で行う
  • 印刷教材は、あいキッズ側で受け持って貰う
  • 毎回のパソコンのセッティングはあいキッズ側で行って貰う

という条件で始めた。大抵のプログラミング教室では据え置きのPCかノートPCが使われる。専用の場所が確保されるため、PC や教材を据え置くことができる。しかし、今回のあいキッズの場合は、共同の教室での開催となるので、毎回ノートPCを設置/片付けが必要になる。これを毎回、私ひとりで行うのは大変なので、あいキッズの職員にやってもらう(結果、あいキッズのアルバイトがやることなった)。

同時に、児童分の印刷教材を家でプリントアウトすると大変なので、これもあいキッズ側で行って貰う。印刷教材も低予算にするために、毎回数枚のカラープリントで済ませている。実は、印刷教材はなくてもよかったのだが、プログラミング教室を始めるときに

  • 参加する児童から、いくらかの月謝(300円程度)を取る

ことに決めた。これは、プログラミングが人気になりつつあったと、パソコンを使わざるを得ないので、人数を制限したかったからだ。月謝はあまり意味はない。学童の場合には、月1,000円でもキツイ家庭があるので、300円程度と設定している。
このため、300円分の何かのお返しをしようというわけで、印刷教材をつくることにした。実際の時給は度外視である。

パソコンを毎回移動しないといけないために、ノートPCを購入することにした。
新品では難しいので、中古の Windows 7 を探し貰うことにした。ノート PC の選定や購入に関しては、本来ならば私がやるところなのだが、それだと「お金」が掛かってしまうので、これもあいキッズ側でやってもらうことにした。
ノートPC は機種はばらばらだが8台ぐらいまで用意した。これを2人交代で使うとして、16人までの教室として設定した。

この「費用」にいちいち細かく言及するのは、このプログラミング教室を「ボランティア」でやる気はなかったということだ。いや、実質ボランティアかもしれないが、完全な無償の場合には長く続かない(実際、市民先生で残っているのは私ひとりだけだそうだ)。いくらかの報酬を貰い、それに見合うだけの仕事というスタイルとることに決めているし、実際よかったと思っている。

金額的には月1万円(源泉徴収、振込手数料などが抜かれるので、実際は9,500円位になる)で請けおっている。
仕事としては到底割に合わないことが理解できるだろう。

初年度の意気込み

ノートPC も準備してもらい、ある程度の印刷教材を用意して、4月からスタートした。
教えるプログラム言語は Scratch と決めておき、いずれは Python か Arduino で電子工作、という妄想を抱いていた。

そう、妄想は第1回目から打ち砕かれてしまうのだ、

  • 教室にいる人数が予定よりも多い。どうやら水増しで 20 人位になっていた。
  • 白板みたいなものがないので、解説ができない、話を効聞かない
  • みな一斉に同じことをやる、ということが出来ない、待てない

一応、小学3年より上という制限を付けたのだが、いやいや無理、社会人の社員研修とは全く違う。これは自分の子を考えて分かったことで、20 人位あつまると教室は騒がしくなんともできない状態になってしまう。

3、4回ぐらいまでは自前な教材に沿ってぽちぽちやっていたのだが、諦めた。これは好き勝手やって貰うほうがよい。教えるという教師的な目線ではなくて、プログラミング教室に居るおっちゃんのイメージに切り替えた。

毎回、印刷教材を5分だけ解説する。その後は自由に Scratch で遊ぶ。何か聞かれたら答える。私自身も暇なときは Scratch で遊ぶ。そんな適当な雰囲気にすることにした。

学習障害っぽい子がいる

学習障害の場合、心理学的言えば、多動性、注意欠陥、アスペルガーと色々な症候群があるのだが、ちょっと発達障害っぽい子がいた。実際、板橋区では小学校の中に発達障害のクラスを別途もうけているところが多い。「5組」と言ったりする。

その昔、今で言えば発達障害っぽい子がクラスに1人か2人はいたものだ。授業中に無闇に騒いでみたり、椅子に座っていられなかったり、大声を出したり、逆に緘黙症だったりと。今でいえば、軽い発達障害なんだけど、みな同じクラスにてちょっと変な子だった。それでも友達だった。

そうい意味で、学童でもちょっと変な子が混じっていて、その子も友達の輪に入っている。
仮に「H君」と呼ぼう。正確な症例はあえて聞かなかったが、5組な子なそうで、あいキッズの職員も手を焼いているとのこと。H君は、当時小4だった。

  • ひとりでノートPCを占有できないと騒ぎ立てる
  • ペアで組んでいる子に順番を渡さない
  • プログラムが上手くいかないと拗ねる
  • 拗ねると、ロッカーとか入って中味をぐちゃぐちゃにする

もう、まったくまともに扱ったら胃が痛くなる感じである。
ちなみに、あいキッズの職員に「プログラミング教室をやっている間は、H君がいないから楽なんですよ」と言われてしまいました。その分、プログラミング教室は大変なんですけどね。まあ、いいんですが。

H君の対応に対して、あるとき気付いた、

  • うちの小1の子と同じじゃないか。

なるほど、自分の息子(当時、小1)に Scratch を教えようとしたら全然覚えなくて、癇癪をおこして、遊び出して、云うことはきかない。なんだ、小1の子と同じだ、ことに気付いた。

それ以来、H君対応は私にとって楽になって、小1だと思うと全然苦にならなくなった。発達障害というのはそういうものだし、後にH君は落ち着くことなる。小5の後半位から落ち着き始めて、小6だと全然大丈夫になっていった。今回の新型コロナウィルス騒ぎで、卒業のお祝いを言えなかったのが残念なのだが、彼に対しては少しだけスキンシップを行うにした。頭をなぜたり、何かやっているときに肩を叩いてあげたり、逆に好きなことをやっているときはほおっておいたり。他の子のガードもあり、彼だけに私のノートPCを使っても貰っていた。子どもに特性にもよるけれども、H君にはちょうどそれがよかったらしい。いや、私はそう思う。

学生ボランティアの存在

プログラミング教室を始めるときに、ひとつ注文があって「誰かボランティアを付けてください」ということにした。これは、16人(結果的に20人位だが)を1人で相手をするのは無理だと思ったからだ。実際無理だ。本格的なプログラミング教室ならば、児童ひとりのノートPCを一台ずつ付けて、8人位が限界だ。

最初は、交代であいキッズの職員が担当していたのだが、パソコンに不慣れというか、どうも「教育」に不慣れなところがあって、なにかと疲れた。

3か月ぐらい経った頃だったが、大東文化大の学生がボランティア(アルバイト?)で常駐することになった。後から分かったことだが、教育学科で、その後は大学院に行った学生である。今年の3月に大学院を修士で卒業している。
この学生が、子ども達に無茶な注文(あれこれ暴れる、あれこれ喧嘩する、あれこれ走り回る)に対応してくれたので非常に助かった。彼女がいなかったらプログラミング教室は廻らなかっただろう。今年から居ないので、どうなるかわからないけど、ノウハウ的に3年間溜まったのでなんとかなると思う、まだ再開していないけど。

学童は半分しつけもやるので、「子どもを叱る」というのが頻発する。大人が真剣に子どもを叱ると、子どものほうも真剣に泣いたり反省したりする。へらへらとあしらうと、へらへらと返してくる。
私は子どもたちを「教育」する立場でははない(教育免許も持ってないし、そういう学習も受け手は無い)ので、其処のは踏み込まないこにした。あくまでプログラマ的な立場や、心理学的な立場(ユング心理学とか)での立場を守って、踏み込み過ぎないようにしている。

Scratch を自由に扱う

最初は、Pyton や Arduino と思っていたのだが、横並びの授業はできないことがわかったので、Scratch を自由に扱うことにしている。パソコンを使っているので、

  • キーボードを自分で打つ
  • Youtube は見ない

というルールにしている。Youtube を見ると回線がパンクするという理由もある。
Scratch には色々なゲームがアップされているので、これは自由に検索して使ってよいことにしている。一応、毎回課題やプリントは配っているのだが、無視するのは自由(苦笑)。課題をこなすのも自由である。
女の子のほうが比較的まじめに課題シートをやるのだが、必ずしもそうではない。ずっと絵を書いている子もいれば、やっぱり飽きて来なくなってしまった子もいる。
別の Scratch 教室に通っている子は、どんどん課題をこなしたり自由に作品を作ったりする。作品を作っている横で3人で交代で Scratch のゲームをしている子たちもいる。いろいろ雑多だ。

キーボードを自分で打つというルールは、キーボードに慣れるためだ。他に、ゲームをやりたいときに検索ボックスに自分でローマ字で打つことにしている。横でアルファベットを教えてあげるけど、キーボードを打つのは子ど自身だ。間違っても根気よくアルファベットを言う。

何か友達がゲームをしていて、あのゲームがしたい、と私(先生)に聞いてきたときは、友達に直接聞いて、ということにしている。学童の場合、学年はばらばらだけど皆顔見知りなのでそれなりに「友達」だったりする。なので、聞けば教えてくれる。最初は友達じゃなくても教えてくれる。これは重要だ。

プログラミング教室内でも、いくつかのブームがあって、

  • ファミスタ野球ブーム
  • ペーパーマインクラフトブーム

なんてのがある。試しに2台ほど、本物の?マインクラフトを入れたのだが、そのうちにペーパーマインクラフトのほうに戻ってしまうのは不思議なところだ。

いまでは「支える」ことに集中している。

来なくなった子も何人かいる

3年間やっているが、途中で来なくなった子もいる。プログラミング教室は他の部活動?(サッカーとか)に比べると抜ける子はそう多くないそうなのだが、それでもいる。

  • タイピングソフトを所望していたが、そのうち来なくなった
  • 絵を書いていたが、来なくなった
  • 塾が忙しくなって来なくなった

私はパソコンが好きでやっているのだけど、向かない/面白くない人もいるのも分かる。なんで、プログラミング自体が向かない、ゲーム自体がたいして面白くないという子や人もいる。そういう場合は、サッカーとか書道とか別の活動をやればよいのだ。

小学校で本格的にプログラミング授業がはじまると、このあたりが問題になってくると思う。プログラミングだけが特別とは言わないし、逆にプログラミングをやらなくてもいいと思う場合も多い。プログラミングをやらないから「論理思考ができない」とは思わない。ただ、いくつかのプログラミング手法が、論理思考の手助けになることは確かなことだ。

あと、小6になると中学受験で来なくなった子が多くなる。その子は往々にして Scratch ができる子なので、もったいないといえばもったいないけど、限られた時間は限られた時間になるので、そこは中学受験に割り振られれうのだろう。

今後の方針

4月から4年目となるのだが、この新型コロナウィルスのおかげでまだスタートしていない。
一般的なプログラミング教室とは異なり、学童で行うプログラミング教室は、学童そして「子どもを安全に預かる」ことが最優先になる。なので、無理矢理教えようとしないのが長く続くコツとなる。教えたりするのはおまけだったりする。

が、さすがに3年目のペーパーマインクラフトブームは長く続きすぎたので、もうちょっと教材を考えようかなと思っている。

ちなみ、ペーパーマインクラフトは、マイクラ remix-2-2 on Scratch で遊べる。いやー、よくできているので、長々と時間が潰せます(苦笑)。お試しあれ。

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学童でプログラミング教室を開いた3年間の話 への2件のフィードバック

  1. つっちん のコメント:

    記事、面白かったです。
    私は、小学校の放課後のクラブ活動で、パソコンクラブの地域先生というのを2年しました。
    クラブでは、ジャストスマイルというソフトを使って、作品を作るというのをしました。
    私自身は、プログラマーなので、プログラムを教えたいなあ、という気持ちがありました。
    クラブの方針は、パソコンに慣れるという目的でした。
    私にも、小学生の子供がいたので、いろいろと学ぶことが多かったです。
    ジャストスマイルを使って、カレンダーや動画を作りました。
    私の立場は、先生ですが、あくまでも、生徒のサポートでした。
    入力がうまくいかなかったり、操作がうまくいかない時のサポートです。
    いつかは、パソコンでゲームや音楽、動画などを作る教室ができたら、いいなあと
    思っています。

    • masuda のコメント:

      プログラマがプログラミングの先生やると「空回り」しますよね。
      先生がプログラミングを教えると「教える」ことで空回りしそうです。

      きちんと、1児童1タブレット(あるいはノートPC)になると、このあたりはうまく回りそうです。大人は「サポート」な姿勢は同感です。

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