段ドリーの奇妙なプロジェクト 第02段

さて、一方、やってんどーの部屋でのドリーである。

プロジェクトメンバーを数えると、1人2人3人・・・と5人いる。まずはプロジェクトリーダーが誰なのかを見極めないといけない。ドリーの武器は「段取り」一本である。段取りの一歩目はまずは状況把握が大切である。

メンバーは5人。名前を聞いてみると

「ひくみん、です」

「びくみん、です」

「ひぐみん、です」

「びぐみん、です」

「ぴぐみん、です」

という答えが返ってきた。なんだ、オリマーはいないのか、と思ったドリーだが、某天堂ゲームではないのでオリマーがいるはずがない。いや、オリマー役がこのプロジェクトには必要なはずだが、実はだれかがオリマー役を担っているのかもしれない。

「段ドリー、です。よろしくお願いします」

自己紹介?は済ませたので、早速だれがリーダー役かを聞いてみる。

「この5名のうちの誰がリーダー役なんですか?」

「「「「「?」」」」」

なんとも怪訝な顔をした「ひくみん」達が並ぶんだが。いや、区別がわからない。首の傾げ方も同じだし、実は服も同じだ。赤いシャツを着ていて、赤いズボンをはいている。ほっそりした体系もみな同じだ。頭にぴょこんと馬鹿毛が生えている・・・訳ではないが、似た感じの髪型をしている。区別がつかない。

「ええと、リーダー役は、ひくみんさん、あなたですか?」

適当なひとりを指さして尋ねてみる。果たして、彼・・・あるいは彼女が、ひくみんさんかどうかもわからないし、リーダー役かどうかも分からない。両方が当たる確率は5×5で、1/25の4%というところで限りなく低い。

「違いますよ」

案の定、否定の言葉が返ってきた。

「そうですよ」

意外にも、肯定の言葉が返ってきた。

はずれが4/5、あたりが1/5の確率で事前確率と事後確率のベイズの関係だ。

「ひとまず、ひくみんさん」

「ええ」

「ちょっと、皆同じ赤い色のシャツを着ているし、顔もどこととなく似ているので、みなさん区別がつくないので、右から「1,2,3,4,5」と呼んでいいでしょうか?」

「・・・・」

ひくみん達が怪訝な顔をして顔を見合わせている。

あまり区別がつかないといはいえ、冒険ダン吉のように番号で割り振るのはあまりにもだと思う。でも、どうみても区別がつかない。A、B、Cでもいいし、い、ろ、は、でもいいのだが、さすがに番号は失礼だろうか。せめて、国語、算数、理科、社会とか、青、赤、黄、白、黒とか五行大儀風に揃えたらいいとかしたらよいだろうか。

「ええ、いいですよ」

「え?あ?いいんですか。ちょっと失礼かと・・・思ったんですが」

「いえいえ。無理もないです。地球の人たちには私達はまったく同じに見えるはずですよ。同じ赤いシャツと同じ赤いズボン、更に同じ顔に同じ髪型をしているから外見では区別はまったくできません」

「・・・・」

「なので、区別しようとしても無理です。無駄です。徒労です。お疲れ様なのです」

「あのう、ひとつ聞きたいのですが」

「はい、なんでしょう」

「あなたがた、ええと、ひくみんさん達はどうやって、区別されているんですか?」

「え?、どういうことです?」

「ええと、ひくみんさんと、ひくみんさん以外が区別がつかないとなると、番号を割り振る位しかないので、区別できなくて困りませんか?」

「はい、まったく困りませんよ。自分と自分以外を区別するのは用意だし、場合によっては区別する必要はありませんから」

「いえ、なんというか、たとえば、ひくみんさんとぴくみんさんを区別する必要があると思うのですが」

「いやいや、まったく大丈夫です。ここにいる人といない人ぐらいは区別がつきますからね」

「あ、ありがとうございます」

なんだよくわからないが、校正者が発狂しそうな感じだが、ありがたくもひくみんさんたちは番号で呼ぶことができるようになった。ありがたい。

「では、ええと、1番さん。最初の質問に戻るのですが、このプロジェクトのリーダー役は1番さんですか?」

「いいえ、違います」と1番が首を振る。

「じゃあ、2番さん?」

「いいえ、違いますよ」と1番が答える。

「そうなると、3番さん?」

「いいえ、そうではありません」と1番が再び答える。

「ひょっとすると、4番さん?」

「いいえ、そうではありません」と1番が再三答える。

「ええと、5分の1の確率で外れたということですか。そうなると、5番さんなのですね?」

「いいえ、残念ながら違うのです」と1番が言う。

「ん?どういうことでしょう?ひょっとすると、さっきのシュローがリーダー役なのでしょうか?」

「そんなことがある訳ないじゃないですか!」

最後の答えだけ1番は怒ったように声を荒らげる。何故、怒っているのかわからない。いや、そもそも顔も赤っぽいので(服やズボンの照り返しかもしれないけど)興奮している訳ではないかもしれないけど、口調が違うのは確かだ。シュロー、嫌われているのか?

「ちょっと、よくわからないのですが・・・、もしかしてリーダー役は今日はお休みなんですか?」

「いいえ。ドリーさん、ちょっと勘違いしているようですが。このプロジェクトにはリーダー役がいないんですよ」

「リーダー役がいない?」

「ええ、プロジェクトにはリーダー役がいません」

「リーダー役がいなくて、どうやってプロジェクトを動かすことができるのですか?船頭役がいなければ、プロジェクトは路頭に迷ってしまうし、船が丘に上がってしまうかもしれませんよ。いや、丘に上がるのは船頭役が多い場合だから、遭難してしまう船に例えたほうがいいですね。どこに行く付くかわからないじゃないですか」

「ええ、センドウ役ならいるんです」

「え?船頭役はいるんですか?」

「ええ、センドウ役は私です」

「・・・・」

船頭役がいるのにリーダー役がいないというのは不思議な話だが、ひとまず1番がリーダー役ということらしい。何かのプロジェクト独自のルールがあるのだろう。「プロジェクト」と「プロダクト」の微妙な違いを主張したり、「コンテキスト」と「コンテクスト」を区別したり、「顔認証」と「顔認識」をごっちゃにしてしまって叱られることぐらい意味があるものかもしれない。

「なるほど。1番さんがリーダー役・・・じゃなくて船頭役なわけですね」

「はい、センドウ役です」

リーダー役の1番の他にも確認を求めたほうがいいかもしれないとドリーは考えたが、他の忙しそうなプロジェクトメンバーを見ていると、このまま1番さんに話を聞いたほうがよさそうな気がした。他の4人はカタカタとキーボードをかき鳴らすことなく、椅子の背もたれに体重を預けながら瞑想しているように目をつぶっている。とても忙しそうだ。設計を考えているのか、小難しいロジックを考えているのか、それとも新しい発想を実現するための手順を頭の中でフル回転させているのか。いびきをかいたり、舟をこいだりしているメンバーもいるが、気のせいだろう。

「ところで、1番さん。このプロジェクトの目的は何なんでしょうか?」

プロジェクトの目的はプロジェクト計画書に記述されているはずだ。PMBOKにはプロジェクト憲章がある。しかし、あの「憲章」というのは何だったのだろうか?皆で意思を統一するための憲章だったのか、皆さん頑張りましょうのための集まりだったのか、それとも単なる飲み会だったのかさだけではないが、100年もの長く続いているプロジェクトにとってプロジェクト憲章とは一体何なのだろう。いや、100年プロジェクトのほうは憲章は必要かもしれない。

いきなり、プロジェクト計画書を見せてください、というのもアリなのだが、プロジェクト計画書がないあやういプロジェクトの場合だと「プロジェクト計画書とは何ですか?」とか「ふふふ、いまどきプロジェクト計画書なんて古いことをやっているんですか、ぷぷぷ」と笑われたりしそうなものだし。ここは円満に、目的を聞いておくのがいいだろう。でも、目的を知らないメンバーがプロジェクトに入ってくるのも問題だし。

「ここに、プロジェクト計画書があります」

1番は、机の上からプロジェクト計画書の冊子を持ってきた。

「ああ、プロジェクト計画書、あるんですね」

「ありますよ。当然じゃないですか」

「そうですね、当然ですね」

「当然ですよ」

ああ、この当然ができないプロジェクトがなんと多い事か!いや、冊子にしなくてもいいのだけどせめてプロジェクトの目的が明確になってから「プロジェクト化」することをして欲しいものです。漠然と営業目標からもってきたものは、達成基準がないからゴールがなくて「プロジェクト化」にならないんですよ。

とドリーの心の叫びで代弁をするのはこれまでとして、ドリーは冊子を開いた。

『プロジェクトの目的:紙飛行機を飛ばすこと』

「あの・・・」

「はい?」

「これが、プロジェクトの目的ですか?」

「ええ、これがプロジェクトの目的ですよ」

「紙飛行機を飛ばすこと、って書いてありますが」

「ええ、紙飛行機を飛ばすことがこのプロジェクトの目的なんです」

「・・・・」

前途多難の予感しかしない、とドリーは思わざるを得なかった。

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