計画駆動とSHIROBAKOの進行係の関係

SHIROBAKO http://shirobako-anime.com/ は、アニメ制作会社のアニメな訳ですが、主人公の宮森あおいはアニメーションを描けません。テレビアニメーションを作るのに、絵を描くアニメーターの存在は不可避なわけですが(キャラデザとか作監とか監督とか企画とかも)、このなかで制作会社として「進行」係に焦点を当てたアニメ作品です。

以前、ブログで書いた後に http://www.moonmile.net/blog/archives/10049 に続きを書こうと思ったら、京都アニメーションに放火事件があって、その後を続ける気分にならなかったのですが、ちょっと思ったことを書き下しておきます。

by SHIROBAKO

アニメーション制作と計画駆動の類似点

SHIROBAKO はアニメ制作会社の話なので、ある意味でソフトウェア開発の計画駆動(ウォーターフォール開発)に近いところがあります。いわば、

  • 最終締め切り(納品)が明確に決められていて、動かせない
  • プロジェクト進行の手順がほぼ決定されていて、前後しない
  • 前のタスクが遅れると後ろのタスクに影響がでる

というところです。一般的なアジャイル開発では、予算の変更やリリーススケジュールの変更が可能であるのですが(ここができないと、あまり「アジャイル開発」とは言えません)、従来型の計画駆動の場合はリリース日が決まっていたり、途中のマイルストーンが決まっていたりします。例えば、アプリのリリース日がプレスリリースされている場合は、その納品日を動かすことはまずできません。システム運用の切り替えや、引継ぎなどの関係、法律の関係など、納品日が絶対であるソフトウェア開発は結構あります。
この場合、余裕のある納品日と予算とスケジュールを立てればよいのですが、ソフトウェア開発において不可避な状態に陥ると、この「納品日」を守るが、かなり大変になりいわばデスマーチ化します。

ソフトウェア開発において、設計→製造(コーディング)→試験の順番は、XPやスクラムなどのアジャイル開発、イテレーション開発などによって一定ではないことが多くなってきました。しかし、多数の会社が参加していたり、ハードウェアとソフトウェアの両輪が回っていたりすると、設計→製造の順番が変えられないことが多くあります。この場合、従来型の計画駆動を踏襲して、概要設計や外部設計を重視したりします。

SHIROBAKOのアニメーション制作においても監督のシナリオ作りからラフ絵、作監、動画、撮影などの順番は変わりません。さすがにこれを前後することはできません。この順番をうまく回していくために、アニメ制作会社ではマネジメント業務として「進行」係が割り当てられます。昔のアニメーションを見ると「進行」の担当者が必ずいます。

進行係が何をするかと言うと、上司的な「マネージャー」役をやるわけではありません。SHIROBAKOを見るとわかるのですが、主に雑用係っぽいところが多いです。しかし、制作会社の立場から監督、作監、動画などのフリーランスあるいは外注を含めて、とりまとめをしていく重要な役割です。ある意味で、各フリーランスや外注の会社がきちんと〆切を守るのであれば、進行係の仕事は必要なく、非常に暇ですよね。でも、そんなことはありえません。確率的にゼロに等しいのです。なので、不確定要素を含みつつ、うまくアニメーションが出来る上がるまで(放映日まで)なんとかするのが「進行係」の重要な仕事です。

ソフトウェア開発においても、マネージメントという業務があり、権限の強いマネージャーという組織化をすることもあるのですが、果たしてそれがうまく廻るかどうかはわかりません。従来のウォーターフォール開発からアジャイル開発に移行しつつあるように、単なる工場的な上司部下的な分け方でソフトウェア開発ができなくなっています。そういう場所でマネージャーの行う「マネジメント」とい業務は何をするべきなのか?という疑問がある常々おこるのですが、これの答えのひとつが「進行係」です。

進行係はプレイングマネージャーではない

SHIROBAKO の主人公宮森あおいは、絵が描けません。高校時代のアニメ部?の仲間はアニメーターや声優になるわけですが、宮森だけは直接アニメーションを作る作業ができるという訳ではないのです。しかし、本作品で重要なのは、実際にアニメーションを作る(ソフトウェア開発ではコーディングをする、設計をするなど)訳ではなく、全くそれ以外の場所でもアニメ制作には重要である、という処に焦点があります。

ソフトウェア開発における「プレイングマネージャー」という役割は、アジャイル開発スクラムのリーダーやスクラムマスターっぽい位置に属します。開発グループにおいて、ある程度コードが書ける=尊敬に値するというカリスマ性は一種重要なものを含んでいるのですが、これがプロジェクト成功において必須条件という訳ではありません。プロジェクト成功の基準を

  • スケジュール通りに納品すること
  • 予算内で終わらせること
  • プロジェクトメンバが脱落しないこと(退職など)

のように、ヒト・モノ・カネの軸で言えば、プロジェクトマネージャのカリスマ性はあまり必要ではないことがわかります。たまに、三番目を外して「プロジェクトを成功」させるマネージャが多いのですが、会社としては継続し得ないプロジェクトメンバ=社員を作ってしまうことは大きな損失なので、プロジェクトが成功したとは言えないでしょう。

ゆえに、ソフトウェア開発におけるマネジメント業務を「進行」という雑用っぽいところまでに落とし込んでいくと、プレイング=コード書ける、必要がないことがわかります。また、ドラッガーがいう処のマネジメント=あれこれ調節する役割も必要ありません。

進行係においては、進行係自身には権限がないのですが、それぞれの権限のある人(監督や作監、動画など)のパフォーマンスが十分に保たれるように動きます。ソフトウェア開発で言えば、プログラマ、営業、テスター、システムエンジニアのように別々の特殊技能を持っている人のパフォーマンスをあげるように調節する役柄です。これを「マネジメント」と言うのですが、一般的な「マネージャー」と区別するために「進行係」という名称を流用します。

進行係は何に注力するのか?

計画駆動における進行係の存在は、現在のところ(といはいえ既に思いついてから20年以上たっているけど)目立った形で見えるわけではありません。本来ならば、マネジメント業務のひとつとして「進行」の役割を演じればいいのですが、

  • 顧客交渉の強い立場としてのマネジメント
  • 進行を円滑するするための下支えのマネジメント

とが、なかなか共有できるとは思えません。とは言え、私の個人的な経験では2名ほど上記の2つが同時実行できるマネージャを知ってはいるのですが、どうも個人的な素質の部分が大きく、体系化できそうにないです。

なので、計画駆動においては、強い立場のマネジメントを従来型のマネージャーが担い、プロジェクト進行を滞りなく進めるマネジメントを進行係として別に割りあてるのがよいでしょう。
とは、いえ、SHIROBAKO のような大所帯(アニメーション制作には100人以上に人がかかわっています)とは違い、昨今のソフトウェア開発のような小規模(5人程度)のプロジェクトにおいて「進行係」を別に立てることができるかといえば、そうはならないでしょう。30人規模のプロジェクトならば、進行係がいたほうがいいかなと思うのですが、現実問題として、独立したひとに「進行」を任せるのは小規模の開発プロジェクトでは無理です。なので、アジャイル開発のように混在した形になりがちです。

締め切り厳守するための進行の役割

となると、ソフトウェア開発において「進行」の役割は、単一の人に割り当てるのは無理そうです。適用範囲が狭すぎるので、あまり現実的ではありません。

ただし、先に書いたようにアジャイル開発が締め切りを動かすことを前提としているように(場合によっては、スクラム開発で強引に締め切りを守る方法もありますが、そこは「機能」を調節しますよね)、計画駆動のように締め切りを前提とした開発スタイルにもメリットは大きいのです。

アジャイル開発において、顧客の要求の変動により仕事量が上下することを前提としていますが、ソフトウェア開発においてはある程度までこの変動を抑えられることがあります。いわば、商品開発的な受託開発や提案型の受託開発です。この場合は、アジャイル開発が使われることが多いのですが(それを売りにする場合もあるし)、敢えて変動要素を少なくするようにすれば、進行的な役割を据えて無理なく締め切りを迎えることが可能になるでしょう。

そこは予測、と変動を許容するプロジェクトバッファという形になるので、これはアジャイル開発自身にも使われているところです。

  • バーンダウンチャートとアーンドバリューの組みあわせ
  • 工事進行基準の応用
  • チケット駆動におけるトータルチケットの予測値

古くは CMMI のレベル4と5の中間あたりですね。CMMI 自体が消え去ってしまっていますが、参考にできるところは多いです。あと、稲森会長の「アメーバ経営」を参考に。

参考

アニメ制作について|TVアニメ「SHIROBAKO」公式サイト http://shirobako-anime.com/about.html

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