ソフトウェア開発委託基本契約書の不備により、未払い200万円の被害を受ける

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フリーで作業をしたり小さな会社で請け負い作業をするときには「ソフトウェア開発委託基本契約書」を結ぶことになると思うのだが、これを結んでしまった後、トラブルが発生したときに「請負側」が被害を蒙っている、という現状です。

本日、弁護士に相談したところ「ソフトウェア開発~」の条項から、「違約金などは取れない」旨の通知を受けたのですが、かなり納得がいかないので、ここにフリーランスという立場の防御のために事案を晒しておきます。

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# 上の図は「給与」って書いてあるけど、実際は報酬/委託金です。

今回のソフトウェア開発は、発注元Lから元請けGに製品開発を依頼しています。この中で株式会社Eの仲介があって個人事業主のM(=私)にところに話が来ている状態です。それぞれの契約は、

  • 発注元Lと元請けGの間の契約
  • 元請けLと株式会社Eの間の契約
  • 株式会社Eと個人事業主Mとの契約

に分かれます。どれも請負契約で、最終的に検収があり、検収のチェックがあった上で入金が発生するという状態になっています。それぞれ4社は、同じ場所で働くこともあり、同じ会議をしている状態で、それぞれは顔見知りの状態です。

さて、去年からこのプロジェクトを続けていた訳ですが、夏ごろに中間検収として発注元Lから元請けGへの入金がありました。元請けGはその中から株式会社Eに入金を済ませました。しかし、株式会社Eは、個人事業主Mへの支払を「意図的に」遅らせています。個人事業主は、入金なりの連絡がこないためにその夏は無給で働くことになっています。

その後、再び、発注元Lから元請けGへの入金がありました。元請けGはその中から株式会社Eに入金を済ませました。しかし、同じく株式会社Eは、個人事業主Mへの支払をしていません。連絡しないので、個人事業主Mとしてはおかしいと思い、10月頃に株式会社Eに「入金があったかどうか?」を尋ねたものの、株式会社Eは「入金はありませんでした」と嘘をつきました。

その後、年末から4月までに何回かの入金が、発注元Lから元請けG、株式会社Eにあったものの、株式会社Eから個人事業主Mへの入金の連絡はまったくなく、0円で仕事をさせられていることになっています。

今回、6月末にプロジェクトを終了するにあたり、個人事業主Mが元請けGに問い合わせをしたところ、既に入金は済ませてあるとの旨の連絡がありました。個人事業主Mは、株式会社Eに問い合わせをしたところ、「手元に資金がないために、個人事業主Mには払えない」という不払いの通知を受けました。

そこで個人事業主Mは、「ソフトウェア開発委託基本契約書」に基づき、株式会社Eに支払いかつ賠償を求めるために、弁護士に相談し、発注元Gと株式会社Eとを交えて、協議の場を設けました。

私としては、下記の「契約の解除」と「損害賠償」に従って、賠償請求あるいは慰謝料請求をするつもりでした。

(契約の解除)

第23条 甲および乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当した場合、何らの催告なしに直ちに本契約および個別契約の全部または一部を解除できるものとする。

(1)支払の停止があったとき、または破産、民事再生、会社更生、会社整理、特別清算等の申立てを受けもしくは自ら申立てたとき。

(2)仮差押、差押、仮処分もしくは競売の申立てまたは滞納の処分を受けたとき。

(3)合併、解散または営業の全部もしくは重要な一部の譲渡、廃止を決議したとき。

(4)甲の信用、営業を毀損する行為または活動を行ったとき。

(5)不正行為または甲の業務遂行の妨害行為を行ったとき。

(6)支払能力に支障が生じたとき、またはその恐れがあると認められる相当の事由があるとき。

(7)直接、間接を問わず、反社会的勢力と関与していることが判明したとき。

(8)本契約または個別契約に著しく違反したとき。

(9)本契約または個別契約に違反し、相当期間を定めとした催告後も是正されないとき。

(損害賠償)

第24条 甲および乙は、本業務履行に関し、相手方の責に帰すべき事由により被った損害の賠償を請求できるものとする。

2 前項に定める損害賠償額は、個別契約にて定める本業務の対価としての委託料の総額を上限とする。

ですが、この「ソフトウェア開発委託基本契約書」には、非常に発注側に有利に作られており、支払が遅延しても賠償金を払わなくてよい、という仕組みが入っているのです。

全文は、http://sdrv.ms/1aVTotF です。

現状、ソフトウェア開発自体は終了かつ発注元Lの開発サーバーに納入済みのために、個人事業主Mは全工程を終えています。このために、発注された金額を「すべて」貰わない限り、利益としてペイできません。ですが、先の条項により、賠償金額の上限は「本業務の対価として委託料の総額を上限」としているために、ソフトウエア開発の完了後(プロジェクト完了後)に入金の遅延が発生したとしても、遅延料金(商習慣、年6%)しか上乗せされないとのことです。

個人事業主M=私としては、発注元からの入金が6月であるので、遅延は6月からであること。中間検収による入金がなく、個人事業主Mは、夏、秋、正月、6月直前まで、入金が全くなく運転資金に苦しんだこと。株式会社Eは、個人事業主Mに支払うべき「入金」を、株式会社Eの別の運転資金に割り当て、意図的に遅延させていることは明らかであること。

これを主張したのですが、先の「本業務の対価としての委託料の総額を上限とする」ということから、上限が委託金であること。このために、損害賠償を契約上、これ以上うわのせできないこと。また、検収後の支払の「遅延」だけであるので、先の法定金利の6%しか適用されないこと、を主張されている状態です。当方の弁護士も、その点には同意らしいのですが、私としては納得がいきません。

もし、これが「正しい」のであれば、プロジェクト終了後、検収後に、意図的に支払を遅らせて法定金利6%という安い金利(銀行で借りると15%ぐらいになります)で借りれることになります。この場合、個人事業主M=請負側の意図とは関係なく発生しているため(遅延について、個人事業主は事前に相談などを受けていません)、勝手かつ悪質な行為ではないでしょうか?

当方の弁護士の相談したところ、この場合には、

  • 特約として、遅延が発生した場合は、金利15%を明記する(銀行の金利以上にする)。
  • 違反が発生した場合は、委託金とは別に違約金○○万円を支払う。

などの項目を明記すると良いそうです。フリーランスの方や、零細企業のソフトウェア会社の方は、速攻「ソフトウェア開発委託基本契約書」を見直してください。この条項が入っている、契約書はほとんど存在しないことが分かります。もし、存在しないならば、契約を更新する形で、追加しておきましょう。

私としては、これが普通の「ソフトウェア開発委託基本契約書」だと思っていた(実際、私自身が作るものもこれなので)ので、これは明らかに「罠」です。意図的に請負側を不利にさせる契約書となります。もちろん、普通にプロジェクトが進んでいる場合にはよいのですが、いったん、トラブルが発生すると、その「不備」を盾にして、賠償金等の支払を拒否するのはビジネス上、かなり悪質だと思われます(勿論、「契約書」であることもも十分心得ています)

実は賠償金額の上限については、経験上、これがないと無限責任となってしまうために、私から株式会社Eに助言をしたものです。この助言に従って入れて貰ったものなのですが、それが自分の首を絞める、さらに言えば、それを盾にとって支払を遅らせるとは思いもよりませんでした。

この点、確かに法律上、契約上がそうなのですが、途中の入金の遅延や「入金は発生していません」の嘘が気になるので、別途、中小企業庁あたりに相談を考えています。当方の弁護士との相談は進めておりますが、「納得がいかない」部分を解決できればと、別な方法も模索していますので、似た事例の経験のある方、知識のある方はご連絡ください。

ひとつの方法として、違反なので「ソフトウェア自体を渡さない」という方法もあるのですが、発注元Lや元請けGのことを考えると、そうもいきません。今回のソフトウェア自体は、製品開発の中核であるために、それがなくなると発注元Lの製品が発売できなくなってしまうのです。また、個人事業主M=私にとって、プロジェクト自体が終わってしまっている=必要な作業量/金額を使ってしまっている状態なので、契約金の満額を貰ったところで、作成したソフトウェアの製作費になるだけで、違約金/慰謝料になりません。なので、かなりひどい状態。これを我慢する必要があるのでしょうか? ってのが問いです。

2013/07/10 追記
下請かけこみ寺に連絡したところ、下請法の対象は「資本金 1千万1円」以上の場合に適用されるそうです。なので、本件の株式会社E の場合は「資本金 1千万円」なので対象外とのこと。下請法に「資本金 1千万円を超える」と書かれているのは、そういう意味らしい。ひどい。なので、下請として取引をする場合には、「資本金 1千万1円以上の会社」とやりましょう。たいていの会社は、資本金1千万円なんだけどね…

2013/08/10 追記
決着がついたので、ソフトウェア開発委託基本契約書の不備の感想戦 – Moonmile Solutions Blog にまとめを書いておきます。

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